真赤―まそほ―

賽は投げられた・其の四



 仕事が片付き退勤時間を迎える。曹仁の車に二人は乗り込んで、一路、曹仁の住むマンションへと向かった。
 「お邪魔します」
 靴を揃えて李典が部屋に上がる。曹仁は自分の荷物と上着を片付け、ハンガーを李典に渡した。
 「取りあえず飯ができるまで適当に待っていろ」
 「はい。ですが、ただ待っているだけというのもなんですから、お手伝いしますよ」
 「いいから座っていろ。お前が手伝ったら意味がないだろうが」
 キッチンへ来ようとする李典をリビングに追いやり曹仁は気合いを込めるように腕まくりをする。前もっての約束だったので、前日にできる仕込はすませてある。普段はしないようなことだが、自分ができることを示すためにもやれることはやるのだ。もっとも、これを毎日、と言われたら曹仁はできないだろうと自覚している。
 「そうだ、李典。飯の前に何か飲むだろう。コーヒーがいいか、それともビールでも飲むか?」
 「……どちらも食事の前には遠慮したいのですが」
 「そうか? じゃあ茶でいいか。ペットボトルの冷たいやつか、温かいのだとパックのしかないが」
 「茶葉は?」
 「ほとんど飲まんのに買ってももったいないだろうが」
 「ああ、確かに」
 「……あっさり納得されるとなんか腹が立つな」
 「気にしすぎですよ。では温かいのをお願いします」
 憮然としながらも茶を用意してテーブルの前に座っている李典に渡す。李典はテーブルの上に置いてあった雑誌を読んでいた。
 「有難うございます」
 「そんなに時間はかからんと思うが、何かつまむか?」
 「いえ、いいですよ。……やはり手伝った方が早くできますし、いいのでは?」
 「駄目だ、お前は大人しく待っていろ」
 頑なに申し出を断ると、李典は一つため息をついて苦笑する。
 「何が出てくるか楽しみですね」
 「言っておくが、豪勢なもんはできんぞ」
 「ええ、それでも楽しみです」
 楽しみだと言われるのは素直に嬉しいが、期待されるのもなかなかプレッシャーだ。しかし同時に自分の作ったもので李典を唸らせてやろう、と意気込むのもある。ともあれ、作業に入るべく、曹仁はキッチンへと戻った。





 そう時間はかからずに今日の献立がそろった。料理を器にもり、テーブルに並べていく。
 主菜は肉じゃがである。今の家庭料理の基本中の基本とまで言われているものだが、カレーと同じく、よほど基本のレシピを無視するか、不器用でもなければある程度美味しく仕上がる。副菜には豆腐のきのこあんかけ、きんぴらごぼう、ホウレン草と卵の炒め物、塩昆布とキャベツの和え物である。ご飯は普通の白米で、味噌汁はわかめと油揚げだった。
 「……すごい量ですね」
 数もさることながら、量もあった。李典はそれに少し呆れた声を上げる。
 「食えんなら残していいぞ。まぁ、俺が食べるから心配するな」
 曹仁は全部作り上げてかなり満足していた。いつもならばこんなに品数を作らないので、予定していたものをすべて仕上げたことに充実感がある。もっとも、どれも手間のかかる料理ではないからこそ、自分にもできたのは分かっていた。
 「いえ、おかわりは無理かもしれませんが、出されたものはちゃんと食べますよ。せっかく曹仁殿が作ってくださったのですから」
 「おう、さ、食ってみろ。味見はちゃんとしたから、味は安心していいぞ」
 「はい、それではいただきます」
 ちゃんと両手を合わせて李典が言う。その作法に懐かしいものを感じて、曹仁はふとむず痒い気分になった。
 「それにしても、ちゃんと煮物、炒め物、和え物とそろえるなんてしっかりしていますね。食材も重なっていないし、栄養も良さそうです」
 「そりゃあ、せっかく作るんだ、お前にあれこれ言われんためにも考えたわ」
 「何ですか、あれこれって。……あ、おいしい」
 味噌汁を一口すすって李典が声を上げる。
 「肉じゃがも食ってみろ。自分で言うのもなんだが、うまいぞ」
 「……確かに。じゃがいもがほくほくでおいしいですね……けど、少し大きいですよ、切り方」
 箸で簡単に割れるほどの軟らかさなので苦はないが、確かに大きい。
 「この方が食いでがあるだろう」
 「大きすぎるのも考えものですよ。まぁ、小さすぎると煮込んでいる間に崩れてしまいますけれど。でもおいしいです」
 「そうだろう、そうだろう」
 一言あるが、素直な感想に曹仁は破顔する。
 「きんぴらなんて、ゴボウの仕込み大変だったんじゃないですか?」
 「ああ、そいつはすでに細切りになっていたのが売っていたから、それを買って作った。それくらいの手抜きはは大目に見ろ」
 「なるほど、納得です。でも、普段はこんなに作らないのでしょう?」
 「そりゃあな。お前が来るから作ったようなもんだ。俺が食うだけなら、肉じゃがとみそ汁だけで十分だな。……どうした?」
 次々と食べながら言うと、李典の箸が止まった。それに首をかしげる。何かおかしなところでもあったか。
 「いえ、何でもありません。しかし曹仁殿、おいしいですけれど、少し味付けが濃い目ですね」
 「そうか?」
 「私が薄味なんでしょうかね。あ、しょっぱい、というほどではないですよ、ご飯に合いますし」
 「だな。そうだ、ビールも飲むか。お前もいるか?」
 「え」
 また李典が止まった。
 「今日の飯にあんまりビールは合わんか? 俺はあんまり気にせんが」
 「…………曹仁殿は飲まれるんですか?」
 「ああ」
 またしばらく李典は黙る。何やら考え込んでいるような気配だった。
 「……いただきます。列車で帰れば、問題ありませんからね」
 「ん、まぁ、そうだな」
 曹仁は冷蔵庫から出した缶ビールを李典に手渡した。



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現パロなので勝手に捏造、料理の腕前設定は、
曹操……気が向いた時にしか作らない。作ると本当にうまい。何でもこなせる。
許チョ……凝った料理や豪華なものより冷蔵庫にあるものでうまく作る家庭の主夫。量が多い。
曹仁……丼もの、大皿料理系。小物は苦手。少し味付けが濃い。下手ではない。量が多い。
李典……ある程度そつなくこなす。種類が豊富。派手ではないが盛り付け綺麗。
徐晃……わりと何でもこなす。煮込み料理が得意。実は細かい作業も得意。
曹洪……作るより作ってもらう。腕は自分がまずくなければOKレベル。しかし買い物スキルは激高。良い物を安く!

曹操>徐晃=許チョ≧李典>>>曹仁>曹洪

許操は曹操の方がうまいけれど許チョさんの家庭の味が食べたいので作ってもらっている。仁典は典さんが主に作ってますが仁さんもお手伝いをする。晃洪は徐晃さんが料理も後片付けもしますが買い物だけは曹洪さんが絶対やります。
あと、許チョさんはきちんとした料理名がついているものより有り合わせで作ってしまうので、この材料を揃えなければ絶対作れない、というような細かくレシピがそろっているのもが苦手だったり。作ればうまいけれど。お菓子やパンなどは手近で揃えれる基本の材料のレシピのものくらいです。(だから仁さんも作れた)
最近曹洪さんが自分の中で、工夫しながらお金を貯めるのが好きな人になっています。大枚を扱うこともできるけれど、日常の買い物で、小銭を浮かせて貯めるのが好きなような。ケチというより、それが趣味というか。使うときはどんと使うので。

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