指輪・その後
宝石店で指輪を選び、サイズを測ってもらい注文したのが先月。
発注した指輪が届いたと連絡があり、休日に二人で受け取りに行った。
店で一度はめてみて、サイズを確認する。
男同士での購入でも、店員は慣れているのか気にする様子が無い。
「いかがでしょう。このままおつけになりますか?」
「いや、はずして持って帰る。」
「かしこまりました。」
店員と曹仁のやりとりを横で聞きながら、「自分もそうだが、曹仁も普段はつけないつもりなのだな」と李典は理解した。
指輪をはめて会社にいったら、目ざとい女子社員達が大騒ぎするのが容易に想像できる。
女性の影すらなかった人が突然指輪をしたら、それこそ会社中に知れ渡るだろう。
正直それは避けたい。
指輪の入ったケースと、それを入れた小さいが立派な紙袋を受け取り、食事をして家路についた。
入浴やその他諸々の片づけが終わったころ、曹仁が指輪のケースをリビングのテーブルに置いた。
「李典、手を出せ。」
「あ、はい。」
李典がおもむろに左手を出すと、曹仁は、その薬指に指輪をはめた。
ゆっくり、丁寧に。
その行動に、李典が少しばかり感動していると、曹仁が今度は自分の左手を差し出してきた。
真似をしてゆっくりとはめて行く。
「流石に照れますね。」
「そうだな。」
「これがやりたくて持ち帰りに?」
「まあ、そんなところだ。」
しばらくすると、指輪の入っていたケースを持って、曹仁が立ちあがった。
「ケースは寝室の戸棚にしまっておくぞ。」
「え?」
「ケースはもう使わんだろうが、捨てるわけにもいかんだろう。
一応しまっておくぞ。」
「曹仁殿、まさか指輪をしたまま会社に行くのですか?」
「当たり前だ。『けじめ』といったろう。」
「え、でも、しかし。」
「なんか不都合でもあるのか。」
「会社で大騒ぎになりますよ。」
「そんなの堂々としていればいい。」
ああ、そうだった。
この人は開き直ると強かった。
強いというか、周りを気にしない。
お陰で何度迷惑を、と今はそんなこと考えている場合ではない。
「そうとはいっても、色々詮索されますよ?」
「例えば何だ。」
「入籍はしたのか、入籍だけなのか、とか、式は挙げないのか、いつ挙げるのか等です。」
「む。」
「あげく、『相手の写真見せてください。』等と言われたらどうしますか?」
「見せたらまずいのか。」
「絶対に嫌です。曹仁殿自身も、仕事に支障がでたらどうしますか?」
「支障もなにも、『営業職がいつまでも独身だと取引先に信用されない』とかなんとか言っていたのは誰だ。」
「たしかに言いましたね。」
「それはともかく、けじめとして指輪はしていく。」
どうしてもそこは譲れないらしい。
「わかりました。では、誰に何をきかれても『相手の都合で』と誤魔化してください。」
「それだけでいいのか?」
「下手に嘘をつくと、取り返しがつかなくなります。『相手の〜』なら、私の都合ですから、嘘ではありませんし、大抵の人ならしつこく聞いてこないはずです。」
「わかった。そうする。」
「いいですか?他に余計な言い訳はつけないでくださいね。」
翌日、指輪をはめて出社した曹仁が、案の定質問攻めにあい、そのたびに「相手の〜」と答えてその場をしのいだのは言うまでもない。
が、そのために
「実は脳内嫁」疑惑があがったとか、急にアプローチをしてくる不倫スキーな女子社員が出たのは別の話。
了
「なりき屋おぞい」の小桂様からいただきました。
前作『指輪』と合わせてお読みください。
取りあえず指輪交換をする二人に悶え転げていいですか。いやもうすでに転がりまくってますけれども。
しかし
『仁さんてばちょっとオトメン(乙女男)……』と思ってしまったりもしましたが、そのあとでけじめとして会社に堂々とつけていく、と言うところは非常に男前です。でも時と場合を選ぼうよ仁さん!やっぱりいろいろあると思いますし!でも大変だ、と思いつつ結構嬉しかったりするんでしょうね典さん。ええい一生やってろ。
有難うございましたv
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