指輪
「おい、李典。ちょっと手を出してみろ。」
「は?手ですか?」
両手を曹仁に差し出す李典。
おもむろにその右手を取り、薬指に細い紐を巻きつけた。
「なんですか?」
曹仁は、質問には答えず巻きつけた紐をとり、指に巻いた長さを測り始めた。
そこまでくると、流石に指のサイズを測っているのだな、と推測できる。
「(右手でなくて、左手ですよ)」
と、李典は内心思いながらも、あくまでも推測でしかないので黙っていることにした。
翌日の夜。
「り、李典。今度の土曜、ちょっと出掛けないか?」
「どこにですか?」
「だから、その、ほ、」
「ほ?」
「宝石店だ。」
「なぜです?」
「ゆ、指輪をだな。指輪を買いに行かんか?」
「昨日測ってらっしゃいましたけど。」
「む。気づいていたか。」
「あれだけあからさまならすぐに分かります。なぜか右手でしたが。」
「なんとなく、気恥ずかしくてな。
で、測ったのはいいが、店員が流石にサイズがなくて特注になるかも、とか、宝石の好みや誕生石が〜とか言っておったのでやはり一緒に行った方が良いのかもしれんと思ってな。しかし、なぜサイズが無いのだろうな。」
そこで李典は気づいた。
「あの、曹仁殿。いったいどんな指輪を買ってくださるのですか?女性ではないので、宝石の好みやら、誕生石やら関係ないと思いますが。」
「だから、『エンゲージリング』ってあるだろう?
俺もお前とこうなった以上、けじめはつけたい。男女と違って籍は入れられんが、指輪くらい・・・おい、真っ赤な顔をするな。こちらも照れる。」
「あ、あの。お気持ちは嬉しいのですが、『エンゲージリング』でなくて、『マリッジリング』の間違いなのでは?」
「何だそれは。」
「ああ、やはり。あなたの言う『けじめ』が『結婚』に準ずるものでしたら、宝石のついていない指輪です。
職場でも、既婚の方は宝石の無い指輪をなさっているでしょう?」
「気付かなかった。」
「申し訳ありません。今、ものすごく脱力いたしました。まぁ、一般的に区別のつかない男性も多いらしいですが。」
「お前はなんで詳しいのだ。」
「放っといてください。」
「で、どうする?土曜は。」
「・・・ありがたく頂戴致します。ですが、どこのお店に行くのですか?
今日曹仁殿が行ったお店では、二人で行くのは流石に恥ずかしいです。
御徒町ですか?新宿3丁目ですか?」
「うーむ。・・・純に聞いてみる。」
結局、曹純には「私が知るわけないでしょう。」と言われ、夏侯惇→社長に良いお店を聞いたそうです。
後日談
「私はてっきり、いつまでも独り身だとお客様に信用されないので、フェイク用に指輪を買うついでに私のも買ってくださるのかと思っていました。
マリッジリング一人分購入では明らかにおかしいですし。」
「お前なぁ、裏読みしすぎだ。」(ちょっと凹んだ)
了
「なりき屋おぞい」の小桂様からいただきました。
マリッジリングとエンゲージリングの違いを知らなかった仁さんが可愛いです。しかしそれ以上に仁さんの行動や発言に赤くなったり脱力したりする典さんが可愛い……!
しかし仁さんの行動力恐るべしです。
このお話には続きがあるので合せてどうぞです。
有難うございました!
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