親子
李典「曹純殿は曹仁殿と同母のご兄弟なのですよね」
曹純「そうだ。あまり似ておらんと思ったか?」
李典「…………多少は」
曹純「まあそうだろう。
兄上は母上似で私は父上似だからな」
李典「え? ……曹仁殿が、ご母堂に?」
曹純「ああ。……おい、今、変な想像しなかったか?
母上は別に兄上を女装させたような姿ではないぞ」
李典「してません! 想像できないな、と思っていたのにそんなことを言われては、
逆に想像してしまうではないですか! うえ」
曹純「うえとはなんだうえとは。気持ちは分かるが」
李典「ですがやはり想像できません……具体的に、どのような方なのですか?」
曹純「そうだなあ……。切れ長の目や笑い方なんかそっくりだぞ。
だが、体格はごく普通の女性そのものだ。性格は豪快だがな」
李典「…………やはり曹仁殿の女装しか思い浮かばない……」
曹純「せめて髭は外せ。息子の目から見て言うのもなんだが、いわゆる美人ではないな。
だが人好きのする方だと思う。なんと言うかこう……
肝っ玉母さん?」
李典「そうですか……でも意外ですね、曹仁殿が御母堂似とは」
曹純「髪質は父上似だがな。私は母上寄りだ。
……懐かしいものだな。よく、兄上といたずらをしては怒られたものだ」
李典「曹純殿もいたずらなどしたのですね」
曹純「そりゃあそうだ。しかし実際のところ、兄上の真似をしたかっただけのようなものだがな。
六歳上の兄は小さい頃の私から見れば、本当に大きく頼りになる人だった。今でもだがな。
……その兄上が父上と大喧嘩をして家を出ていってしまったときは泣いたものよ。
私はまだ、十になるかならんかの頃だ」
李典「…………」
曹純「父上は厳しい方だったからな。母上はむしろ奔放だった兄上を見守っていた。
何を学ぶも、何を行うも、自分ですべて決めること。その後どうなったとしても、
自分で責任を負うものだと言っていたからなあ」
李典「それはまた、ある意味厳しい方ですな」
曹純「まったくだ。だが、今の兄上を見れば、九泉の父上も満足していらっしゃるだろう」
李典「御母堂はご健勝なのですか?」
曹純「ああ。元気に家を守ってくれている。だからこそ、私や兄上が殿につき従い、戦をできているのよ」
曹仁「なんだ、李典。人の顔を見たとたん、微妙な表情をしおって」
李典「いえ、先ほど曹純殿にご両親の話を聞いたので。
……曹仁殿は母君似だとか」
曹仁「ああ、そうだ。……おい、変な想像するなよ。わしの女装姿などではないぞ」
李典「ですがやはり想像がつきません。まだ曹純殿のほうが想像できます」
曹仁「やかましいわ。……そういえば久しく連絡もしておらんな。今度、文でも送るか……」
李典「ご実家にお戻りになればよろしいでしょうに」
曹仁「勘当された身で戻れるか。親父がおらんとてできるわけがない」
李典「え? 勘当された?」
曹仁「なんだ、知らんかったのか。昔暴れまわり過ぎて親父に勘当されたのだ。
実家は純が継いだ。わしが二十歳の頃か」
李典「……そのようなこと、さらりと言うものではないと思いますが」
曹仁「確かにわざわざ言うものではないな。だがお前だからいいだろう。
それに、わしも純も同じ殿に従っていて、だのに家督を継いでおるのは純の方だ。
気になるだろう。隠しているわけではないから知っている奴は知っている。
別に知られても構わん。自分がしでかしたのは事実だ」
李典「意外に寛容な心根をお持ちで」
曹仁「うるさいぞ、お前」
李典「ですが、勘当されるほど暴れまわっていたとは、どれほどのものだったのか……。
今では曹丞相に信頼され大軍を任される方であられる」
曹仁「人は成長するものだ」
李典「あなたが言うと、何かおかしい気持ちになりますな」
曹仁「お前は口がへらんな」
李典「母君にはもう少し文を送られたほうが良いと思いますよ。できれば直接お会いになるのがいい。
……いつ会えなくなるか分かりませぬ。後悔しては遅い」
曹仁「……わかっとる」
了
ウィキさんで調べて、純さんが174年生まれかもしれない説を採用。仁さんは168年生まれなので、純さんが家督を継いだ14歳の時、仁さんは20歳としました。で、曹操のところに馳せ参じたのは22歳です。その4年後に純さんが仕官してくる。因みに典さんは仁さんより12歳下かなと思っているので、その時点でまだ10歳。180年生まれ。
某方が言ってらっしゃったのですが、仁さんが母親似だと凄いですよね。父親はきちんとして厳しい方だったんじゃないかなと想像。で、ちょうど反抗期にぶち当たった仁さん、父親のことは尊敬はしているけど頭から押さえつけられているような息苦しさに爆発して暴れまくる→どっちも頑固で負けず嫌いなので引かない→大喧嘩となった流れに。
しかしおそらくはどっちも理解はしていたと思います。そのあたり、お母さんがフォローとか入れていそう。純さんも仁さんを慕っているし、関係は冷え切ったものではなかったんじゃないかなと。たまーに純さんが渋る仁さん実家に連れて行って、そこでお父さんと仁さんがまた喧嘩して、それを見物するお母さんと純さんがいればいいと思います。
でも仁さんのお父さんも39歳でお亡くなりに。さらに純さんも36歳で亡くなるとか……。切ない。
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