真赤―まそほ―

無双仁典で妄想:其の七


曹仁「次の任地が決まったか」
李典「はい。合肥ですよ、合肥。
   よりによって張遼殿と楽進殿」
曹仁「頼もしいではないか」
李典「確かに頼もしいですけどねえ。
   精神衛生的にはあんまり宜しくないです」
曹仁「……そなたが張遼殿を快く思わぬのは分からぬでもないが、
   楽進は何故だ?」
李典「馬が合わないってやつですかね。
   冗談通じないし、こっちが策立ててるのに話聞かないで突っ走るし……」
曹仁「そなたと組んだ頃の自分のようだな」
李典「そうでしたっけ」
曹仁「……何にせよ、合肥は孫呉からの守りの要。
   腰を据えてかからねばなるまい。
   私情は抑え、双方協力せねばならぬぞ」
李典「頭では分かってるんですけどね……」
曹仁「いきなり関係を良好にしろとは言わぬ。
   だが、任務をおろそかにすることは武人として恥ずべきことだ。
   そうならぬよう、心には留めておけ」
李典「はーぁい。
   ……そうだ、曹仁殿。餞別に何かください」
曹仁「餞別?」
李典「はい。何か曹仁殿が持っているもので一つ。
   お守りにしますから。
   だって曹仁殿はこの魏の鉄壁でしょ?
   そんな人の持ち物だったらなんかこう有難味があるじゃないですか。
   それ持ってれば、頭にきたって冷静になれるかもしれないし」
曹仁「……なるほど。
   しかしお守り、か。この場合、手の平より小さな物が良いのだろうな。
   それに自分がよく持っている物だとなお良いのだろう。
   さて…………そうだな、これが良いか」
※服の下、首から下げていた何かを取り出す
李典「何? 小袋?」
曹仁「開けてみよ」
李典「……あ、これもしかして玉(翡翠)?」
曹仁「そうだ。自分が殿の元へ馳せ参じた時、殿から授けられた物だ。
   褒美の一つではあるが、自分が自分の進むべき道を見つけた時の物として、
   初心を忘れぬようにと持っていたのだ」
李典「でもそれじゃあ大事な物なんじゃないですか?」
曹仁「無論。だが自分以外の誰かの支えの一つとなるのも良いだろう。
   そなたが大事にしてくれればそれで良い」
李典「うっわ、なんか物凄い物貰っちゃったよ……。
   本当にいいんですか?」
曹仁「構わぬ」
李典「……それじゃ、有難くいただきます。
   守りの玉かあ、もうこれ以上ないくらいってくらい凄いお守りだなあ!」
曹仁「だがそれは単に形あるだけのものだ。
   そなたが真に守らねばならぬものを忘れるでないぞ」
李典「分かってますって!
   ふふー、俺も曹仁殿みたいに首から下げとこ。
   無くさないように服の中に入れとけば大丈夫ですよね。
   よし、これでばっちり!」
曹仁「…………。
   しばらくはこうやってそなたと話す機会もなくなるのだな」
李典「まあ……そうですね。
   なんだかんだ言って結構一緒に戦うこと多かったですもんね。
   ……曹仁殿、あっちに行っても連絡とか定期報告以外の竹簡、送ってもいいですか?」
曹仁「勿論だ」
李典「やった! 本当は直接会って話したいのもあるんですけど、
   やっぱり合肥と江陵じゃそんなに簡単に行けないですしねえ。
   孫呉や劉備軍倒してしまえればそれが一番いいんだろうけど、
   それも簡単にはできないしな。
   じゃあ、なんかあったら、なくてもですけど、送りますね!」
曹仁「うむ。楽しみにしていよう」
李典「曹仁殿からくれてもいいんですよ?」
曹仁「そうだな、分かった。
   ……よし、今日はどこかへ出かけるか。
   共に飲み交わすのもしばらくはないだろうからな」
李典「行きましょ、行きましょ!
   どうせなら朝までパーッと飲み明かすくらいに!」
曹仁「そんなことをして二日酔いになったらどうする。
   ほどほどにしておけ」
李典「ちぇー。曹仁殿が酔っ払ったところ見てみたかったのに」
曹仁「少なくともそなたよりは強いぞ。
   それに度を過ごすことはけしてせぬからな」
李典「度を過ごしても俺が面倒見ますって!」
曹仁「面倒を見ることになるのはおそらく自分だと思うがな」





以前書いた話と別パターン。
あちらはどちらかというと結構両方から矢印が出ているイメージでした。

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