無双仁典で妄想:其の六
※赤壁の戦い
曹仁「どうした李典、そんな神妙な顔をして」
李典「あ、曹仁殿……。
いや、この戦、なんか嫌な予感するんですよ。
こっちは圧倒的兵数、あっちは劉備軍を足したって3万ちょい。
象が蟻を踏みつぶすようなもんなんですけど……」
曹仁「そなたは不穏を覚えると言うのだな?」
李典「水上の戦いになれていないのも、病人が出始めているのも、
殿は分かっているんです。それを計算に入れても勝利は間違いない。
だけどなんだろう、なんか嫌な感じ……」
曹仁「……象が蟻を踏みつぶす、か。
蟻は小さく、象は巨大だ。もしかしたら、踏み潰し損ねるやもしれん」
李典「そう! しかも下手すれば象はその巨大さゆえに身動きが取り辛いってのもある。
そんな時、蟻じゃなく別の何かが襲ってきたら?
象ほど大きくなくたって、急所を突けば耐えられないでしょう?
……でも、俺にも気付くことを殿が気付かないわけないし……」
曹仁「……もうすでに進軍は決まっている。今はやるべきことをやるしかあるまい。
だが、その言葉、おぼえておこう。
自分は此度の戦は後方の江陵で待機を命ぜられた。
有事の際はいつでも駆けつけるよう心がけよう」
李典「すみません、なんか変なこと言っちゃって」
曹仁「元よりそういう心構えではいたから変わらぬ。
それよりもそなたは殿をしっかりとお守りするよう奮戦せよ」
李典「了解!」
※敗走
曹仁「殿、よくぞ御無事で」
曹操「周瑜と劉備にしてやられたわ。
覇道はなかなかうまくいかぬものよのう」
曹仁「殿が御健在であれば何も問題ありますまい。
今は英気を養い次にお備えください」
曹操「うむ。
そうだ、子孝よ」
曹仁「はい」
曹操「李典の元に行ってやれ。
あやつと許チョのおかげでわしは難を逃れた。
しかも途中張飛と激しくやりあってな。
大きな怪我はしておらぬようだが大分消耗しているはずだ」
曹仁「……はい」
李典「……ああー、曹仁殿だあ」
曹仁「大事ないか、李典」
李典「はーい、なんとか。
いろいろあったけどちゃんと殿を守り通しましたよ」
曹仁「うむ。殿もそなたと許チョのおかげだと言っていた。
よくやったな」
李典「……あー、疲れたあ!
曹仁殿の顔見たらどっと疲れが出てきたよ……」
曹仁「ならばゆっくりと休むが良い。
あとは我らが引き継ごう」
李典「ん……そうします。
あの、一つお願いしてもいいですか」
曹仁「なんだ?」
李典「曹仁殿にこんなこと頼むのは本当失礼だと分かってるんですけど、
正直もう自分で一歩も動きたくなくて。
……寝床まで連れてってください」
曹仁「良かろう。自分の背中におぶさるがいい」
李典「いや! そこまでしてほしいってわけじゃなくて!
ただ肩を貸してくれるだけでありがたいっていうか……」
曹仁「構わぬ。おぶさるのが嫌であれば担いでいくが。
そなたくらいなら問題はない」
李典「曹仁殿ってば男前……じゃなくて!
本当、そんなことまでしてくれなくてもいいから!」
曹仁「……確かにそなたも立派な男児、背負われるのも担がれるのも少々気恥ずかしいか。
配慮が足りなかったな」
李典「あ、いや……。
………………お願いします」
曹仁「良いのか?」
李典「なんかもういいや。それに滅多にないことだし……。
それじゃあ申し訳ありませんがよろしくお願いします」
曹仁「うむ、承知した」
※おぶさり中
李典「あーもー曹仁殿の背中ってば広いし逞しいし、
本当にも嫌になるくらい頼もしいんだからちくしょー」
曹仁「それは世辞を言っているのか嫌がっているのかどちらだ」
李典「複雑なんです男心は。はー、何この安心感……。
このまま寝ちゃっていいですか。
もういっそ曹仁殿の背中寝床にしていいですか」
曹仁「そうしたければそうするといい。
着いたら牀台に寝かせておこう」
李典「ツッコんでよ、もう……。
まあ、それが曹仁殿らしくていいんだけど……。
……でも本当、冗談抜きに眠い」
曹仁「眠るといい。そなたはよくやった。
今はゆっくりと休まれよ」
李典「うん……曹仁殿の声、気持ちいいなあ。
落ち着くー……。
………………」
曹仁「……眠ったか。
ならばなるべく静かに運んでやらねばな」
了
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