無双仁典で妄想:其の五
※曹仁の過去
李典「曹仁殿、曹仁殿って昔は悪ガキだったって本当ですか?」
曹仁「………………。
誰から聞いた?」
李典「殿からです。詳しい事は教えてもらえませんでしたけど、
若い頃はよく、殿と一緒に悪さしてたって。
本当ですか?」
曹仁「……事実だ。
若かったとはいえ、今思い出しても恥じ入る思いだ」
李典「へえ! そんなに?
でもなんか嬉しいなー」
曹仁「何がだ」
李典「だって生真面目な曹仁殿でも、そういうところがあったんだなーって思うと、
親近感湧いちゃいますよ。
……あ! 別に馬鹿にしてるとかそんなんじゃなくって、ほら、俺ってこんなんでしょ?
だから、曹仁殿もちょいアレな一面あるってのがなんかこう……。
……すみません、調子に乗りました」
曹仁「いや、謝ることはない。
確かに昔のことは痛い思いもあるが、けっして否定するものではないと思っているからな。
そして今の自分は、当時を糧にし、殿の覇道のために力を振るっているのだ。
それは胸を張り、誇りとするもの。
褒められた過去ではないが、大事なものなのだ」
李典「大事な過去、か……。
そうやって言えるのって凄いですよね。
それにしても昔の曹仁殿ってどんなんだったんだろ。
暴れまわってたって言っても、今からじゃ想像できないなあ」
曹仁「……馬に乗り、剣を佩き、弓をつがえ、周辺の無頼どもを従え賊を荒らしまわっていた」
李典「わお、昔っから勇ましい!
でもやってることって今とあんまり変わりなくないですか?」
曹仁「言葉にすれば、な。
だが志無き力は、たとえ正しいことに使ってたとしても周りを怯えさせるだけだ。
当時の自分にはそれが分からなかった。ただ闇雲に暴れまわっていた。
賊を倒していたのは単に奴らが目障りだっただけで、
奴らがいなかったらそれは別の対象に向けられていただろう。
そして賊を倒すことによって自分の力を周りに認めさせ、賞賛されたかっただけなのだ」
李典「……それがどうして、今みたいに?」
曹仁「殿の姿を見たからだ。
殿も昔はいろいろと周囲を驚かせることをしていたが、
それらはすべて、今へと繋がる手段と方法であった。
そして世を平定するために乱世へ乗り出す殿を見た時、己の器の小ささを恥じた。
力を誇示するためだけに暴れまわる自分の、なんと情けないことよ、と。
それからは己を律した。そして殿の覇道の力とならんがために立ち上がった。
今の自分があるのは、殿がいたからこそだ」
李典「……じゃあ、今の俺があるのは、曹仁殿がいたからかな」
曹仁「うん?」
李典「俺、自分の勘の鋭さには小さい頃から自信があったんですよ。
でもそれをうまく言葉にすることができなくて、
周りからは変なこと言ううるさい奴って言われてたんですよね。
だから一時期は自分の勘に自信が持てなくなったっていうか、言っちゃいけないのかなって思ってて。
それでも結果的に俺が言ったことが当たったから、それなりに武功も重ねてこれた。
だけど周りにとっちゃ訳分かんないらしくって、
実は敵方と通じてたから罠を知ってたんだとか、二心があるだとか言われてて」
曹仁「……耳が痛いな」
李典「あ、曹仁殿を責めてるわけじゃないですよ!
曹仁殿みたいに、なんかあった後でも、話を聞いてくれた人っていなかったですし。
殿の場合は軍に参じた時から面白い奴だって言ってくれたんですけど」
曹仁「殿はそういうところを見極めるに鋭い目を持っておられるからな」
李典「ええ。でも殿がそう言ってくれても、他の人もそう思ってくれるわけじゃないでしょう?
だから曹仁殿が話を聞いてくれて、俺も考えをまとめられるようになってきたから、
他の人も力を認めてくれるようになった。
まだ完璧ってわけじゃないですけど、落ち着いてきたかなーって」
曹仁「自分の行動がそなたの助けになったのならば嬉しいことだ」
李典「そりゃあもう!
また自信をもって、自分の勘を堂々と言えるようになりましたからね!
……まあ、たまーに調子に乗り過ぎることもあるけど」
曹仁「あとで反省し、次に生かすことができればそう気に病むことでもあるまい。
それに、そのように堂々とできるようになったのは、
そなた自身がそうであろうとしてきた結果だ。
自分の行動がそなたの助けになったとしても、そなた自身が行動しなければ、何にもならぬ。
そなたはもっと己を誇っていい」
李典「あんまり褒めたら、もっと調子に乗っちゃいますよ?」
曹仁「度を過ぎる行為であれば自分がそなたを諌めよう。
その時は覚悟するがいい」
李典「覚悟ってなんですか覚悟って……」
了
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