無双仁典で妄想:其の参
李典「曹仁殿! いますかー?
殿からの竹簡を持ってきましたよー」
曹仁「おお、すまぬな。そこへ置いておいてくれ」
李典「はーい。
……お仕事中?」
曹仁「うむ。今日中に片づけられるものは片付けておきたいのでな」
李典「今日は非番でしょ? ゆっくり休めばいいのにさあ」
曹仁「これが終われば休憩を取るつもりだ」
李典「んー……それじゃ、俺も手伝いましょうか」
曹仁「そなたこそ休みではないのか?
近いうちに出陣なのだから、そうなれば休みたくとも休めぬぞ」
李典「だからこうして曹仁殿のところに遊びに来たんじゃないですか。
その途中で殿に捕まってお使い頼まれたわけです」
曹仁「……将たる者が遊ぶと言う表現はどうかとは思うが……。
分かった。手伝ってもらおうか」
李典「了解!」
※お仕事終了。
李典「よっし、思ったより早く終わりましたね!」
曹仁「うむ。礼を言おう、李典。
さすがにそなたはこういうことは得意なのだな」
李典「へへへ、俺ってば意外と博識で真面目なんですよ?
皆そう言ったら驚くけどねー」
曹仁「そうか、その者たちは認識を改めた方が良いな。
さて、これからどうするか。
自分は鍛錬と武器防具の手入れの後、酒でも飲もうかと思っていたが」
李典「曹仁殿……それ、休むって言わない。
もっとごろごろしたりしないの?」
曹仁「むう……しかし、普段はじっくりと時間をかけれぬことをこういう時にかけたいのでな。
それに……他に方法を知らぬ。
何もせずぼんやりとするのは、逆に落ち着かぬのでな」
李典「なるほどねー。でもそれっていっつも気を張り詰めてるってことじゃない?
それに慣れちゃってるから落ち着かないってだけで、体は緊張しっぱなしじゃないのかなあ」
曹仁「ふむ……」
李典「一番いいのは寝ちゃうことだと思うけど。
俺なんて休みの日はお昼に起きちゃうよ?」
曹仁「それでは今日は珍しく早いのだな」
李典「うん、なんか、曹仁殿と話したいなーって思ってさ。
……はっ! あのー……今更だけど迷惑でした?」
曹仁「確かに今更だな。
だが仕事を手伝ってくれたであろう。迷惑ではない。
これが騒いで仕事の邪魔をすると言うのであったなら即刻叩き出していたがな」
李典「良かったー!
あっ、そうだ。そろそろお昼だし、一緒に昼餉にしましょうよ!」
曹仁「そうだな。ではここでとっていくがよい。そなたの分も用意させよう」
李典「えっ、いいの?
どっかに出かけようって思ってたんだけど、御馳走になっちゃおっかな」
曹仁「ただし、好き嫌いも食べ残しも許さぬぞ。
どうしても駄目なものがあるならば先に言うが良い」
李典「そんなことしませんて! だーいじょうぶ!
曹仁殿が出してくれる物なら何でも食べちゃいますよ!」
曹仁「……別に自分が作るわけではないのだが」
※食事中
曹仁「一つ聞いても良いか」
李典「いいですけど? 曹仁殿なら何なりと!」
曹仁「何故そなたは自分と話したいと思うのだ?」
李典「何でって……やっぱり迷惑でした?」
曹仁「そうではない。先ほどの会話でも思ったのだが、
会話とは時として他愛のない冗談も交えるべきだろう。
自分はそなたを楽しませる会話などしておらぬと思うのだ。
だからこそ、そなたが自分と話していて楽しいと言うのが不思議でならん。
殿は自分とそなたは師弟のような間柄に似ているとは言っていたが」
李典「んー……それって人によるんじゃないかなあ」
曹仁「ふむ?」
李典「冗談言わなくたって楽しい会話ってあるでしょ?
誰が相手だって、お互い楽しいって感じなきゃ、意味ないんじゃないかなあ。
……って! 迷惑じゃないってだけでそれってもしかして大人の対応!?
曹仁殿、真面目だから、しょうがないから付き合ってやるとか思ってたとか!?」
曹仁「落ち着け。自分もそなたと話すのは良いことだと思っている。
そなたは視野が広い。落ち着かないように見えてよくよく周りを見ている。
勘が鋭いのも、その視野の広さから見た結果、気づかぬことを気づくのであろう」
李典「やだなあ、褒めてもなんも出ませんよ?
でも曹仁殿がそう言ってくれると重みが違うなあ」
曹仁「事実を述べたまでだ。世辞は巧くはないからな」
李典「確かに世辞の巧い曹仁殿って想像できない……。
でも、俺、そういうところ好きですよ?
なんていうか、ちゃんと本心で話してくれるし聞いてくれるっていうか。
だから曹仁殿と話したいって思うんですよ」
曹仁「……そうか。殿も似たことを言っておられたな。
すまん、つまらぬことを聞いた」
李典「いえいえ! それだけ俺のこと考えてくれたのかなって、ちょっと嬉しいなーって思っちゃったり!
なーんてね!」
曹仁「そうだな。以前よりそなたのことを考える時間は増えたな。
そなたは時折突拍子もないから見ていて飽きぬ」
李典「…………曹仁殿ってさあ、女性にもてません?」
曹仁「あいにくだが、女人との付き合いは多彩ではない」
李典「いや、そりゃ単に知らないだけです。気が付いてないだけです。
絶対曹仁殿に想い寄せてる子はいるね!」
曹仁「おかしなことを言う。
まあ、まったく、というわけではないが、殿や郭嘉殿には遠く及ばぬぞ」
李典「あの二人は別次元でしょう。
俺なんてさー、それなりに声かけられはするけど、どっちかというとお友達止まりが多いんですよ。
でも曹仁殿は本気度合の高い子がいると見た!」
曹仁「多くの者に慕われるのは有難いことだが、自分は戦人ゆえ構ってはやれぬ。
ならばその者も、自身だけを想うてくれる相手を見つけた方が良かろう」
李典「……あ。今のであんまり付き合いがない理由が分かりました。
曹仁殿って何か生じる前にばきばき折りまくってるわ……」
曹仁「それにしても何故そのような話になるのだ」
李典「無自覚って怖っ!」
了
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