真赤―まそほ―

記念日


 李典が怒っている。
 今朝からずっと怒っている。
 理由も分からないまま、曹仁は出勤し、昼休みに実弟・曹純の店で昼食をとっていた。

 「で? 兄上、私にどうしろと?」
 「曼成の機嫌の悪さが全くわからん。なにか心当たりないか?」
 「私に心当たりがあるわけがないでしょう。昨日ここで働いていた時は普通でしたし。」
 「では、帰った後か。」
 「あ、そういえば、兄上が早く帰るからとかなんとか言っていたような。」
 「なんとかってなんだ。それに、昨日は遅かったぞ。」
 「なぜ遅かったのです?」
 「早く帰るつもりが、牛金に誘われて飲みに行って、そのうち他のメンバーも加わって、夜中になったなぁ。」
 「それ、家に連絡しましたか?」
 「あ。」
 「あと、思い出しました。『一緒に暮らし始めて今日で一年』と言っていましたよ。記念日だったのでは?」
 曹仁の背中に嫌な汗が流れてきた。
 そうだ、昨日の朝、「今日はお祝いをするので早く帰ってきてください。」と言っていたような気がする。
 髭をそっているときだったか、出がけだったか。理由はどうであれ、ちゃんと聞いていなかった。
 「兄上、今日の内に謝った方がいいですよ。ケーキでも買って。」
 呆れながらも、曹純が助言をくれた。





 夜。早めに帰宅、といってもすでに9時を回っている。
 「昨日はすまん! 詫びにタルトケーキを買ってきた。」
 「もういいです。女性でもあるまいし、いまさら記念日なんて気にした方がおかしいのです。」
 口ではそう言いながら、目は完全に怒っている。
 「銀座じゃなく、ちゃんと代官山の本店で買ってきたぞ。」
 「その店の本店は、代官山でなく静岡です。」
 「む」
 「でも、わざわざ行ってくださったんですか?」
 「まあ、な。」
 「ありがとうございます。」
 すこし怒りがおさまりつつあるようだ。
 「本当に昨日はすまん。」
 「記念日を忘れられたことに怒っているのではないのです。夕食がいらないのなら、早めに電話を頂けますか? 待っている身にもなってください。」
 そうだった。一人が長かったせいか、その辺の配慮に欠けていた。
 おそらく、食べずに待っていたのだろう。それなのに、夜中上機嫌で帰ってこられたら、機嫌が悪くなるのもうなずける。
 「それに……。」
 「それに、なんだ。」
 「なにかあったかと思うじゃないですか。何度携帯電話にかけても出ないし、メールにもでないし。」
 まずい。涙声になってきた。李典は、早くに両親や親類を事故や病気で亡くしている。
 電話に気付かなかったことで、いらぬ心配をかけたようだ。
 「すまん。本当にすまん。」
 あわてて抱きしめまた謝った。
 「とにかく、連絡をください。最低限のマナーです。」
 「わかった。約束する。」
 そういうと、李典の機嫌も直ったようだ。
 「夕飯、昨日のがそのまま残っていますけど、それでいいですか?」
 「ああ。」
 「先にお風呂すませてください。その間にメインを焼きますので。」
 「一緒に入らんか?」
 「遠慮します。」
 「たまにはいいだろう。」
 「夕飯いらないんですか?」
 「それは困る。」
 「じゃあ、早く入ってください。もう10時近いんです。」
 「はいはい。」
 「……あとで行きますから。」
 「お、おう。」




 一日遅れの記念日はこれから。








「なりき屋おぞい」の小桂様から、拙宅の2周年祝いとしていただきました!有難うございます!!
現パロで仁典。何だもうこの幸せ夫婦め。

一緒にお風呂入るのか典さん……取り敢えず夕食が更に遅くなりそうな気がしますと言ったら遅くなりますと言うお返事がきました。
それでこそ仁さん(ぇ
しかし典さんもそこを見越して、おかずがさめてしまわないよう、調理する手前でストップしていったそうです。
さすが典さん。
……次の日休みなら、ご飯食べた後、タルトも平らげた仁さんがもれなく典さんを離さない気がしますがどうでしょう。


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