真赤―まそほ―

含桃


■事の発端
曹操「丁度良いところにいた、李典、含桃はいらんか?」(含桃=がんとう。さくらんぼのこと)
李典「これは美味しそうですね。ですが宜しいのですか?」
曹操「たくさん貰ったのでな。早く食わねば傷んでしまって勿体なかろう。
   他の者にも渡しているのだ、遠慮はするな」
李典「それでは有難く頂戴いたします」
曹操「そういえば知っているか?
   含桃の茎を舌だけで結ぶことができる者は接吻が巧いそうだ」
李典「……あんな短いものをどうやって?」
曹操「だからそれを結べたら、舌の使い方が巧みだ、ということなのだろう。
   子孝の奴はどうだ?」
李典「なっ、…………存じません」
曹操「何だ、結んだ事がなくとも、口を吸うくらい普段やっておるのだから、
   上手いか下手かくらいは分かるだろう」
李典「丞相!!」
曹操「はははは、せっかくだ、それを持っていって試してみろ。
   あやつは大雑把に見えて意外と手練れだからな、簡単にできそうだ」
李典「…………」




■仁典
李典「……曹仁殿、いらっしゃいますか?」
曹仁「おう、李典か。どうした」
李典「丞相から含桃をいただいたのですが、食べませんか」
曹仁「そりゃあいい。ちょうど一息つこうかと思っておったところだ。
   どれ……ほう、いい色をしているな。まあ丞相からの賜り物なら当然か」
李典「たくさん貰ったとかで、他の方にも配ってましたよ。
   ……それでですね」
曹仁「うん?」もぐもぐ(すでに食べてる)
李典「人の話を聞かずに食べないでください」
曹仁「なんだ、食べないかと持ってきたんだからいいんだろう? それとも駄目だったのか?」
李典「いえ、別にいいですけれど。
   ……で、話を戻しますが、曹仁殿は含桃の茎を結べますか? ……その、舌だけで」
曹仁「舌だけで? これをか?
   こんな短いもの結べるのか……?(もごもご)
   ん、できた。案外巧くいくものだな」
李典「……………………早すぎませんか。いくらなんでも」
曹仁「少し長くて細めの茎だと結構簡単にできるぞ。
   なんだ、お前はできんのか?」
李典「やったことがないので分かりません」
曹仁「だったらやってみろ、ほれ」
李典「ご自分ができたからと言って得意げにならないでいただきたい。
   できるだろうとは思ったけどなんでそんなにあっさりできるだこの人は
曹仁「ん? なんか言ったか?」
李典「いいえ、なんでもござらん。
   丞相もおっしゃられてましたが、曹仁殿は意外と器用なのだなと思っただけです」
曹仁「意外とはなんだ意外とは」




■晃洪
徐晃「洪将軍、丞相から含桃をいただきました。
   将軍の分もいただいたので一緒に食べませんか」
曹洪「なんでお前がわしの分まで貰うんだ。
   ……まあ、含桃に罪はないか。食うから寄こせ」
徐晃「どうぞ。この果物は食べだすと止まらなくなりますな」
曹洪「そうだな、つい手が伸びる」
徐晃「そういえば丞相が言っておられたのですが、
   将軍、この茎を舌だけで結べますか?」
曹洪「なんだそりゃ? 結べたらどうだと言うんだ」
徐晃「舌の使い方が巧みという訳で、接吻が上手だと言えるそうですよ」
曹洪「げほっ!ごほっ!!」
徐晃「大丈夫ですか?」
曹洪「いきなり変なことを言うな!」
徐晃「変なことでしょうか? 面白い話だとは思いますが。
   因みに自分はできます」
曹洪「誰も聞いとりゃせんわ!!
   ……本当にできるのか?」
徐晃「ええ、少しお待ちを。
   ………………………………。
   ……はい、できました」
曹洪「……簡単なのか?」
徐晃「コツはいると思いますが、物を選んでやればそこまで難しくはないかと」
曹洪「むう……よし。お前にできてわしにできんはずもない」(もごもご)
徐晃「…………」じー
曹洪「…………(もごもごもごもごもごも)
   ……よし! できたぞ!
   どうだ、わしにも簡単にできるわ! しかもお前より早いぞ!」
徐晃「お見事です。確かに洪将軍はお上手ですしね」
曹洪「……何がだ」
徐晃「勿論、接吻が。普段はなかなかさせてもらえませんが」
曹洪「当たり前だ! というかなんで近づいてくる!!」
徐晃「いえ、ご教授願おうかと」
曹洪「断る!!」




■許操
許チョ「………………」(もごもごもごもごもご)
曹操 「…………」(じーーー)
許チョ「………………」(もごもごもごもごもご)
曹操 「…………」(じーーーーーーー)
許チョ「あの、丞相」
曹操 「なんだ?」
許チョ「そのようにじっと見つめないでいただけませぬか」
曹操 「おお、すまんすまん。お主がそうやっている姿が楽しくてのう。
    で、できたのか?」
許チョ「……申し訳ございません、もう少し、なのですが……」
曹操 「ふむ、許チョにも苦手とするものがあったか」
許チョ「舌だけで、とはなかなかに難しいものです」
曹操 「そうだな。よし、わしが手本を見せてやろう。(もごもご)
    ……む、そら、できたぞ。二つくっついた茎でやったから片結びだ。
    もう少し練習すれば蝶々結びができそうだな」
許チョ「………………お見事です」
曹操 「お主も練習すればできるぞ? わしが教えてやる。やってみぬか?」
許チョ「教えてやる、と申されましてもどうやって……」
曹操 「それはこうやって」
許チョ「っ」
曹操 「………………、……実戦で教えてやろう?」
許チョ「……それでは、長くお手を煩わせてしまいます」
曹操 「構わん、むしろその方がいい。
    わし自ら教えるのだ、しっかり覚えるのだぞ?」
許チョ「……分かりました」




■戻って仁典
曹仁「……おい、李典。
   さっきの含桃の話だが……丞相に聞いたぞ」
李典「!!」
曹仁「わしはできたから、まあ巧いということになるんだろうが……。
   実際のところどうなんだ?」
李典「何故拙者にそれを聞くのですか」
曹仁「実際にお前にしとるだろう。こういうのは自分ではなく、
   相手に判断してもらうものだろう?」
李典「もう少し表現を包み隠すことをなさい。
   ………………お上手ですよ、腹立たしいことに」
曹仁「腹立たしいとはなんだ、嫌なのか?」
李典「そんなわけないでしょう、嫌だったらとっくの昔に拒絶してます」
曹仁「…………」
李典「…………」
曹仁「……嫌じゃないのなら、今はいいのか」
李典「節操がなさ過ぎますよ」
曹仁「この状況で言うか、それを」
李典「一度は言わねばならぬでしょう。まだ勤務中です」
曹仁「少しだけだ、あとは我慢してやる」
李典「殊勝な心がけですね」
曹仁「勤務が終わったら見ておれよ」



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曹洪さんが巧いのは一応そちらでは手練れなほうだからです。女性相手に。
李典さんは多分できません。許チョさんは技術云々はないけど下手ではない。

うっとこの呂陳(北方ベース)だと、呂布さんは下手くそです。すみません。何せ力押し。本能。技術などない。(酷い)陳宮は人並み。


呂布「……………………(もごもごもごもごもごもごもごもご……)
   できん」
陳宮「舌だけでなく歯を使うといいと思いますよ」
呂布「お前はできるのか?」
陳宮「時間はかかりますが、なんとか」
呂布「……できたほうがいいのか、やはり」
陳宮「いえ、できなくとも構いませんよ。遊びの一種ですから。
   これができる者は、まあ、接吻が巧いだろう、という話があるだけです」
呂布「俺は下手か?」
陳宮「え? ……確かに、そういうことで言うならば、技術があるとは言えませぬが……。
   ですが、ただ技術があればよいということでもございませんし、呂布殿は呂布殿で良いかと」
呂布「それでいいのか? お前は」
陳宮「…………構いませんよ、現状のままで。
   そりゃあたまに口を吸われると言うより噛みつかれていると思わないでもないですが」
呂布「では、お前のやり方を習えばいいのか」
陳宮「私とて巧みなわけではございませんよ。
   呂布殿、私は嫌な時は嫌だとはっきり申します。呂布殿もご存じでしょう」
呂布「知っているが、どうせならお前が満足するほうがいいだろう。俺のやる範囲でだが。
   取りあえずは、あまり強く噛まなければいいのか?」
陳宮「……できることならば。しかし、あまりご無理はなさらずとも」
呂布「分かった」
陳宮(どっちの分かっただろう……。それにまあ、確かに噛まれるのは痛いが、
   それはそれで、あの人らしくて嫌ではないんだが……)

自分の了解できる範囲内であれば、陳宮の小言も我慢する呂布さんなので、おそらく陳宮が嫌がれば譲歩とか改善の努力はするんでないかと。





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